鬼が来た!
「鬼が来た!」
<鬼子來了/DEVILS ON THE DOORSTEP>/製作:2000年、中国 140分
監督、脚本:チアン・ウェン 出演:チアン・ウェン、香川照之、チアン・ホンポー、ユエン・ティン、澤田謙也
2007.2.3 劇場前売り鑑賞券(1回券)¥1,000にて鑑賞
隣の評論家はいくら?→¥3,000の価値はありましょう! / 評価:4.8★/5点満点★
2000年カンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品
熱く語っている内に、ラストに触れずにはいられなくなりました。ネタバレしていますので、未見の方は映画を見てから読んで頂くことをおススメします。
《映画俳優・香川照之特集》に行って来ました。私は、この映画に完敗です。〈凄い〉という一言では片付けられない程にノックアウトされました。鑑賞直後は何を書いたらいいのか見当もつかなかったので、パンフレットを購入しました。ファミレスで熟読しながら、この作品を咀嚼・吟味してみましたが。果たして私は、この作品の素晴らしさを把握できているのでしょうか。
舞台は、第二次世界大戦末期の中国・寒北の寒村。マー・ターサン(チアン・ウェン)の家に【私】と名乗る男が【麻袋】を2つ置いて行く。中身は何と人間だった。日本兵・花屋小三郎(香川照之)と、通訳のトン(ユエン・ティン)。捕虜と変わらない状態の花屋は、「殺してくれ!」とわめき散らすが、トンが機転を利かせて友好的な通訳をする。村人達に世話されて半年が経ち、花屋の気持ちは穏やかなものに変わっていった。そして、感謝を込めて日本軍に穀物を進呈してくれるよう進言すると約束をする。花屋は「おめおめと帰ってきやがって!」と罵倒を浴びるが、酒塚隊長(澤田謙也)は約束以上の穀物を村に与える。その夜、村人全員と陸海軍が集まって宴会が開かれるのだが、事態は全く予想もしなかった展開を迎え...。
私は、歴史の勉強をかなりサボっていたので、本作の背景にスーッと入っていけない状態でした。後でパンフレットを読んで、そういう状況だったのねと少し理解できた程度のお馬鹿さんです。幾分、浅い感想かもしれませんが、そこは笑ってお許しください。
最初の村でのシーンは和やかな雰囲気で、〈戦時下〉という舞台を明るく笑い飛ばす作風なのかと思っていました。【麻袋】によって世界が一変する村人たちのオロオロした姿と、その中で鬼気迫る勢いで「殺せ」とわめき散らす花屋の生真面目さが滑稽に見えたのです。ところが、花屋が日本軍を訪れる辺りから空気が一変しました。捕虜となっても自害しなかった花屋に暴力を加えて罵倒する兵士たち。酒塚隊長のカリスマティックなキャラクターにも迫力があり過ぎて、何だか不安な気持ちになっていきました。村人と軍人達が集まって開かれた宴会の席で、村人が酒塚隊長を馴れ馴れしく触るシーンがあります。不安が頂点に達したのも束の間、惨劇が起こります。この時点では、日本は敗戦していたのです。それを知っていたのは、酒塚隊長ただ一人でした。敗戦を知らされた兵士達のボルテージは上がり、村人を虐殺する日本兵の姿が映し出されます。
完全に裏切られたとうなだれていると、更なる展開が待ち構えていました。宴会が始まる前に逃亡したマーと恋人ユィアル(チアン・ホンポー)は、殺されずに済んだとは言え、燃えさかる村の姿を目にします。マーの胸中は、想像を絶するものだったのではないかしら。命令に背いてでも花屋と通訳のトンを決して殺そうとしなかったマーが、単身《国民党軍》に乗り込んでいきます。斧を片手に兵士を斬るマーの姿を目にして、言葉を失っていると。国軍将校の命令で、マーは処刑される事になります。そして、その《処刑人》を任命されたのが、誰あろう花屋正三郎だったのであります。
本作は〈モノクロ・パートカラー〉でした。色がつくのは、斬られたマーの角度から映し出される花屋の姿と景色でした。そして、真っ赤な暗転と共にエンディングへと流れ込みます。何と言う衝撃的な作品でしょうか。最初はブラックな笑いで一杯なのねと笑みを浮かべて鑑賞していた私にとって、物語の結末も鮮烈でしたが。戦争がもたらす極限状態で生きなければならなかった人達の精神状態を思うと、言葉にできない感情が込み上げてきて止まりません。『鬼が来た!』というタイトルですが、【鬼】とは登場人物の誰かではなくて【戦争そのもの】なのではないかという気がしました。私にとっては、もの凄い吸引力のある作品でした。厳しいことを言うと、中国の人が日本語を喋るシーンは、やっぱり聞き取りにくかったです。という訳で、もう1度じっくり見てみたい作品です。
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コメント
がつんとご満足いただけてよかったです。
これは強烈だけど傑作ですよねー。
投稿: かえる | 2007年2月 4日 (日) 20:48
あわあわわ。
「色」は喋っちゃダメ(汗)。
かくいう私も、
ラストの「色」を観る前に知ってしまったために、
衝撃が薄れて後悔したひとりでした。
さて、この映画は、
いくつかのバージョンがあるみたいですね。
日本は、比較的長いバージョンでの公開じゃなかったかな。
監督のチアン・ウェンはデビューの『太陽の少年』が大好きです。
彼は俳優としてもたくさんの名作に出ていますよね。
ところでこの映画に出演した香川照之にとって
その苛酷な撮影はとても大きな体験となったようで、
そのときのことを「キネマ旬報」に連載しています。
もしよろしければ、読んでみられることをオススメ。
日本の撮影とは全然違うことが分かります。
「鬼」はおそらく「日本人」のことだと思いますが、
「戦争」という解釈もなるほどなと思いました。
あっ『独立少年合唱団』もぜひ。
個人的にはこの映画は
香川照之のベスト・アクトではないかと思っています。
投稿: えい | 2007年2月 4日 (日) 21:35
コメントありがとうございます。
★かえるさま
行って来ましたよーん。いやぁ、傑作でしたわ。
「傑作だぁ」と実感するまでに少し時間がかかりましたけど。単純ストレートな作品ではまず味わえない魅力がありました。
★えいさま
ひぃーん、ゴメンなさい~ 涙。 ちょっとアレンジしてみますが、今更ですね...。
本作は『インターナショナル・バージョン』という事でしたが。オリジナルは3時間以上あるみたいですね。どんな描写をカットしていたのか気になります。
香川さんによる『撮影日記』も販売してました。そちらは購入しませんでしたけど、パンフレットに一部載っておりました。そこだけは読みましたー。
「鬼」は「日本人」
これがテストの問題に出たら、正解は勿論「日本人」だという事はわかっているんですけど。このところ、戦争モノを多く見ていたら、平和に生きている身分でも『戦争』への嫌悪感が強まる一方だったので。この作品を見ていても、痛烈な反戦メッセージが込められているような気分になりました。その辺を形にしたいと思っていたら、こんな文章を入れてました。
『香川照之特集』としては、本作は香川さんを目一杯拝めなかった印象もありました。『独立少年合唱団』の香川さんは『ゆれる』以上なんですか?この特集上映では間に合いませんけど、是非ともチェックしたいと思います。香川さん大好きって言ってる割には、未見の作品が多いたわけ者なんでございますー。
投稿: 隣の評論家 | 2007年2月 4日 (日) 23:13
こんばんは。
「『ゆれる』もいいけど『独立〜』もね。」
というところかな。
『独立〜』は衝撃的ですよ。
あっ、思い出した。
『クイール』も印象に残ってます。
いま話題の寺島しのぶと夫婦役で、
出番は少ないんですが、
ふたりで「これぞ演技」というものを見せてくれます。
『故郷の香り』では聾者という設定で、
主人公たちに取ってはいわゆる<悪役>の立場ですが、
最後は場をさらいます。
投稿: えい | 2007年2月 5日 (月) 22:48
えいさま
「おせちもいいけどカレーもね」 私は、カレーの方が好き。
つくづく私は、香川さんの出演作で未見のものが多数あります。
『クイール』も見てません... 『クイルズ』なら見ましたよ、名前は似てても全然違う作品ですね。
寺島しのぶは『愛の流刑地』よりも何よりも『赤目四十八瀧心中未遂』だと思うんですけど。世間一般的には浸透しない作品でせうかー
香川照之特集は終わってしまったので、DVDででも必ずチェックしたいと思います!
投稿: 隣の評論家 | 2007年2月 6日 (火) 19:10
随分前に観ましたよ~♪中国映画追いかけていた時に。
やはり前半ののどかさに安心して、ショッキングな後半に衝撃を受けた一人です~(^^;) いやほんとにずしんとくる作品ですよね。。監督のチアン・ウェンは役者としても色々出ていますが、才能ある人と思います。。が最近どうしているんでしょう・・
で、香川さんですよね! そうか、香川さんの特集上映だったんですかー 素晴しい!
投稿: マダムS | 2007年2月 8日 (木) 09:10
マダムSさま
コメントありがとうございます。
どもどもー♪ ご覧になっていましたか、おほほほほー。
鑑賞直後は、茫然自失といった感じで「果てさて、ブログには何を書こう」と固まってしまいました。皆で連れ立ってワイノワイノと鑑賞するよりも、一人で行って一人で浸るべき作品だなんて思いました。
この作品のラストカットも衝撃的ですけど、何よりも描かれる設定と急変するテンポには強烈なインパクトがあった気がします。新作ではないから、まぁいいか。と、ばかりにネタバレしてしまったのですが。実際には、まだまだ書き足りないくらいにノックアウトされたのです。DVD購入した方がいいのかなー。
今年これから出逢う作品に、このくらい惚れ込む作品が居るのかどうか。楽しみでありますー。
投稿: 隣の評論家 | 2007年2月 8日 (木) 20:12
はじめまして。
『エクステ』評を見てから、たまにROMさせてもらってます。
「鬼」という言葉は中国怪談(というか古典)では別の意味で使われてまして、日本で言う赤鬼青鬼じゃなく、幽霊・霊魂という意味に相当するんです。「鬼籍」などの言葉に片鱗が残ってますね。
ですから花屋は日本的な意味でも鬼ですけれど、中国的な意味でも(軍では戦死扱いだったので)鬼。さらにはマー自身も両方の意味の鬼になるし、冒頭の「私」まで鬼っぽく見えてきます。
物語のセンスも古典怪談集の『聊斎志異』なんかに似ていて、とてもクラシカルな味わいがあります。実は自分的には、世間の評価とは違って「美しい構成の映画だなあ」と思っている次第です。
今後もちょくちょく読みに来ます。
それでは。
投稿: エスねこ | 2007年2月24日 (土) 12:04
エスねこさま
初めまして、こんにちわ。貴重なコメントをありがとうございます。今後ともヨロシクお願い致します。
幽霊・霊魂ですか、なるほどー。
今、思い返してみても、『私』が鬼っぽく感じられますね。
>物語のセンスも古典怪談集の『聊斎志異』なんかに似ていて
怪談ですか!それは興味深いです!!!きっ、気になります~。
>世間の評価とは違って「美しい構成の映画だなあ」と思っている次第です。
私はそんな風に書いてませんけど、何となく仰る意味もわかるような気がします。今更ですけど、DVD購入しようかなぁとも思案中ですよ。
投稿: 隣の評論家 | 2007年2月25日 (日) 11:32
こんにちは。お邪魔します♪
隣の批評家さんも香川ファンと聞いて嬉しくなりました。
この映画、DVDで鑑賞したのですが、すごかったです!
映画館で見たかったな~
それでこの映画に関する「中国魅録」という本を読んで、また続けて2回ぐらい鑑賞したら、・・・結構おなか一杯気味になりましたが・・(爆)(もともと戦闘シーンが苦手なもので・・・)
香川照之は出てると知らないでみた日本映画にちょい役で結構出ていてビックリします。「いつか読書する日」とか「嫌われ松子」などなど・・・・
もっと主役でどんどんでてほしいなあ。脇役じゃなくて、と思います。
投稿: jester | 2007年6月17日 (日) 09:37
jesterさま
TB&コメントありがとうございます。
そうなんです、香川さん大好きです。日本の俳優さんの中で一番好きです。日本アカデミー賞授賞式の時、渡辺謙さんに「作品毎に全く違う顔で登場する悪魔のような俳優さん」と、褒め言葉として言われてたんですけど。「謙さんにそんな風に言って頂いて本当に嬉しいです」と、ちょっと感動したように語っている姿にまた惚れました。
この映画は、本当に凄いですね。鑑賞直後よりも、後から後からジワジワと何かが伝わってきた作品でした。
投稿: 隣の評論家 | 2007年6月18日 (月) 20:43