怪談
「怪談」
製作:2007年、日本 119分 PG-12指定
監督:中田秀夫 原作:三遊亭円朝 出演:尾上菊之助、黒木瞳、井上真央、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香、津川雅彦、榎木孝明、六平直政
2007.8.15 レディース・デイ¥1,000にて鑑賞
隣の評論家はいくら?→¥1,800で妥当 / 評価:3.8★/5点満点★
「ずっと、ずっと、ずっと、あなただけ。」
出逢ってはならない、愛し合ってはいけない運命のふたり。
深く激しい愛が巻き起こす、陶酔と戦慄の物語。
原作は落語家・三遊亭円朝の『真景累ヶ淵』(しんけいかさねがふち)。江戸時代に今の鬼怒川近辺で実際に起きた累(かさね)という女が夫に殺された事件を元に作られたそうで。そうと聞いたら、少し涼しくなってきました。あの《貞子》を生み出した『リング』の中田秀夫監督が『怪談』という映画を作り上げました。インタビューで「《女の情念》 を描いてみたかった」と語っているのを見たんですが。この映画を見た私の感想は、また作り手の意図から逸れまくりの解釈になってしまいました。「違うっしょ」と思われること受け合いですが、感じたままに書いてみたいと思います。
煙草売りの新吉(尾上菊之助)は、三味線の師匠・豊志賀<とよしが>(黒木瞳)と出逢う。一瞬で恋に落ちた二人は、深い愛で結ばれる。母親と息子ほどに年の違う2人だったが、豊志賀は新吉を想う余りに彼に近づく若い女に嫉妬の炎を燃え上がらせるようになる。ふとした言い争いから左目の上に傷を負う豊志賀。その傷は嫉妬心に同調するかのように腫れ上がっていった。やがて、豊志賀は命を落としてしまうのだが。そこには驚くべき遺書が残されていた。「この後女房を持てば必ずやとり殺すからそう思え」 恨みの込められた走り書きに震える新吉だったが、美しい新吉を女たちが放っておくはずもなかった。やがて、怪奇現象が起こり始めて・・・。
本作が映画初主演となる歌舞伎界のプリンス尾上菊之助が新吉を演じているのですが。こういう作品ですけど、とてもイキイキとしていて良かったと思います。当然の如く和服を着こなして、ごく自然に美しい所作を披露してくれる。女の私としては、お手本にした方がいいんじゃないかと思わせる妖艶さを魅せてくれました。それと、豊志賀に出逢った瞬間の表情がとても良かったんだよな。正に《恋に落ちる瞬間》を見てしまったという感じで。後に現れる女たちに目を奪われる表情も、同じように良かったです。
実は私、この作品から【女の情念】 を感じて震え上がることができませんでした。恋焦がれて常軌を逸していく豊志賀の姿は印象深いのですが、【怨念】 と化した豊志賀の場面はそんなに多くなかったし。狂い出したら止まらない新吉の運命も、豊志賀の残留思念によるものだけではなかったような気がします。冒頭、新吉と豊志賀の父親の場面がありました。落語に沿って進行するという演出は、個人的にはとても気に入りました。新吉の父(榎木孝明)は、豊志賀の父(六平直政)を惨殺してしまうのですが。豊志賀の父の最期の「恨みますぞ・・・」 という言葉が、豊志賀の遺書よりも強烈に残りました。豊志賀の怨念の背後には、父の更に強烈な恨みが構えていたのではないでしょうか。新吉の父の傍若無人な態度も解せませんでした。ひょっとして、新吉の父もまた呪われていたということはないのでしょうか。
中盤から主な舞台となる【累ヶ淵】。不気味に霧が立ち込めていて、異様だけれど少し美しくもある不穏なムードを見事に醸し出していたと思います。結果的に〈死体の山〉となっていきますが。伝説では、新吉が訪れる前から何体もの死体が沈んでいたと言います。最終的には、豊志賀の怨念だけでは済まない膨大な恨みこそが、新吉を呼び寄せてしまったのではないでしょうか。クライマックスで新吉めがけて伸びてきた青白い手は3本でした。豊志賀の両手ではなくて、3人の手だと解釈したのですが。そう考えると身震いが止まらなくなりました。
血飛沫の舞うスプラッタな描写は殆どありませんけど。バーンという音と共に突然に手がにゅうっと現れたりするので、ビックリして飛び上がってしまいました。日本のオバケ屋敷みたいな怖さが本作には溢れていました。欲を言えば、豊志賀の情念をもう少し強く感じ取りたかったかな。今回、悪女を演じた瀬戸朝香は印象に残りましたけど。
豊志賀から新吉を略奪するお久を演じた井上真央は、純真無垢という感じがし過ぎて残念でした。もう少し、女にしか嗅ぎ取れない秘めた〈狡猾さ〉を匂わせてくれたのなら、最高に面白かったんだけどなぁ。(屈折しすぎ?)余談になりますが、エンディング曲は私にとっては本編のイメージに合っていなくて頭にきました。
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