歩いても 歩いても
「歩いても 歩いても」
製作:2008年、日本 114分
監督、原作、脚本、編集:是枝裕和 音楽:ゴンチチ 出演:阿部寛、夏川結衣、YOU、高橋和也、田中祥平、寺島進、樹木希林、原田芳雄
2008.7.1 映画サービス・デイ¥1,000にて鑑賞
隣の評論家はいくら?→¥2,500で妥当 / 評価:4.5★/5点満点
「人生は、いつもちょっとだけ間に合わない」
今年の夏も、15年前のあの日につづいている――。
横山家の一日には、誰もが自分の家族の物語を重ね合わさずにはいられない。
===(シネマトゥデイよりストーリー紹介)===
夏のある日、横山良多(阿部寛)は妻のゆかり(夏川結衣)と息子のあつし(田中祥平)と共に実家に帰省した。この日は、15年前に他界した兄の命日。しかし、失業していることを口に出せない良多にとって、両親(原田芳雄、樹木希林)との再会は苦痛でしかなかった。
長男の命日に集まった家族を捕らえているだけなのに。ふとした会話の中に、この家族の過去と現在が浮かび上がるようになっていました。
良多と父・恭平の間には、深い溝が見える。子供の頃は、父に憧れて「将来は医者になりたい」と言っていた良多。しかし父は、出来のいい長男に跡継ぎの夢を託していた。良多は、今でも亡き兄に強いコンプレックスを感じている。![]()
ゆかりは、夫を亡くしていた。子連れで良多と結婚していて、あつしは今だに良多のことを「お父さん」と呼べない。ゆかりは、良多の家族に馴染もうと必死になっているのに。良多と父親の関係は、今だに微妙な雰囲気のまま。![]()
本作は、母・とし子と良多の姉・ちなみ(YOU)が料理をしている姿から始まります。野菜を切りながら、ふとした思い出話に花を咲かせているのですが。
ちなみを演じたYOUの明るいキャラクターが効いていて、ユーモアのセンスが抜群であろう樹木希林との会話は漫才のようです。
原田芳雄の頑固オヤジっぷりも妙に愛おしくて。劇場は、ところどころ笑いに包まれました。私が一番笑ったのは。孫たちが「おばあちゃん家だぁ、わーい」とはしゃぐのを見た恭平が「この家は俺が働いて建てたんだぞ、何で《おばあちゃん家》なんだ」と文句を言う場面です。
言われたちなみが、廊下でコッソリ込み上げる笑いをこらえて呟きます。「ちっちゃーい!」昔気質の頑固オヤジと、太陽のように明るい娘。
正反対のようで噛み合っている家族の姿にニンマリとさせられました。![]()
私は阿部寛も原田芳雄も大好きなのですが。本作は、女性陣の心情を思い描きながら引き込まれていきました。
特に、樹木希林の演技が素晴らしかったと思います。10年以上前の私だったら、本作の良い部分を見つけられなかったかもしれません。今だから、私なりに共感したり感動したりできたのではないかと。
印象的な会話は幾つもあったのですが、特に際立って心に刻まれた場面があります。それは、《女の背中》です。今までは、背中で語るのは男で、それをさり気なく読みとるのが女の役目なのかと思っていたくらいですが。本作では、母・とし子と妻・ゆかりの背中に引き込まれました。![]()
自分の命と引き換えに、ある少年を助けた長男。父・恭平も母・とし子も、本当は今だに「なぜウチの息子でなければいけなかったのか」という気持ちを消化しきれていない様子でした。
15年経っても、その時の〈少年〉も命日には呼び続けています。ぶくぶくに太った彼は、就職できずにフリーターで生計を立てていました。「こんな僕でも生きていることに感謝します」と、それはそれは素直に真っ白い感謝を述べるも。父・恭平は、「こんな奴の為に」となじっていました。
「ちゃんと謝ってたでしょう」という、ちなみの明るい突っ込みでその場は通過したのですが。
その夜、「もう赦してやったら?」と言う良多に、母・とし子が「忘れてもらっちゃ困りますよ」と呟く姿を後ろから捕えます。その背中からは、静かな怒りが感じられたのです。
青年を憎むことが生きるエネルギーにもなっているのでしょうか。私は、鳥肌が立ちました。
良多の家族は、実家に一泊します。
とし子は、良多にはパジャマを買っておいたと言います。照れ臭い良多は、着ようとしませんが。「着たらいいじゃない」と言う妻を、良多の視線で後ろからを捕えます。「どうせ買うなら、私の分も買ってくれたって・・・」と呟くゆかり。必死になっても、やはり母親には敵いません。疲弊しきった背中にドキッとしました。![]()
他にも、良多の家族ととし子が長男の墓参りに行く場面も好きです。
急斜面の坂道を下る4人。とし子と良多が並び、ゆかりとあつしが並ぶ。2組の母と息子の姿が愛おしかったです。
母親にとって息子は〈恋人〉のような存在なのかもしれませんね。
家に迷い込んだ蝶を、長男の魂だと言い切って優しく捕まえようとするとし子の姿も強烈でしたし。
場面が変わってラストの墓参りのシーン。「いつもちょっとだけ間に合わない」と呟いていた良多のセリフを思い出しつつ、元から身長の高い阿部寛が一回り大きく見えました。![]()
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コメント
となひょうさん、こんにちは。
なんてことはないストーリーなのに、とっても味わい深い作品でしたよね~。
当時はおしょうゆ顔の風間トオル派だった私ですが、阿部ちゃんを見直しましたわ。
みんな、すごくリアルなキャラクターで、彼らの言動や行動の一つ一つに笑ったり、せつなくなったりでした。
「おばあちゃんち」って皆が呼ぶ問題は、案外と普遍的で、なるほど、一理あるなぁと思いながら笑えました。
今年の邦画のマイベストワン候補っす。
投稿: かえる | 2008年7月18日 (金) 19:51
かえるさま
TB&コメントありがとうございます。
>今年の邦画のマイベストワン候補っす。
おおおおお、そうですかー

私も、この作品は下半期で締めてもイイ線いくと思います。
私が選ぶなんて意外かもしれないけれど。
何てことないようでいて、本当に味わい深い作品で感銘を受けましたよー
かえるさんは風間トオル派だったのですねぇ

私は、昔から阿部ちん派でした。
以前、トーク番組で阿部ちんがゲストの時を見たのですが。
チヤホヤされていた頃は、自分でも認めるくらいに天狗になっていたそうです。仕事を選らんでいたら、こなくなってしまって。以来、くる仕事は断ったことがないそうです。
最近では、数多いので断ることもあるかもしれませんけど。
人に歴史ありですね。
是枝裕和監督と組むなんて、これまた楽しみにしておったのですが。期待以上に素晴らしい作品で大満足でした。
投稿: となひょう | 2008年7月19日 (土) 19:41
是枝さんの映画は大好きなんですが、これも良かったです。
長い間会う機会のない家族ほど、互いへの思いと同じくらい、溝を作ってしまうものですよね。
この映画を見ながら、あ~わかるわかると頷きっぱなしでした。
今年の盆は実家に帰ろうと思いました(笑
投稿: ノラネコ | 2008年7月25日 (金) 01:20
ノラネコさま
TB&コメントありがとうございます。
何てことないようでいて、嗚呼、家族ってそうなのよねと、共感できるポイントが幾つもあった感じがしますね。
>今年の盆は実家に帰ろうと思いました(笑
実家から離れている方は、こんな風に思う方が多いかもしれませんね。
でもって、やっぱり素敵な映画だなぁと思いました。
投稿: となひょう | 2008年7月25日 (金) 21:01